「デジタル技術」と「人材」を競争優位の源泉に
小島:

東急建設株式会社は、総合建設業として建築・土木事業を幅広く展開しています。当社が2021年5月に公表した長期経営計画“To zero, from zero.”では、事業戦略の推進にあたり「デジタル技術」と「人材」を競争優位の源泉とし、これらを高めることで、社会に対する価値提供と持続的な企業価値の向上を目指しています。
そこで創設されたのが価値創造推進室です。我々デジタルイノベーション部は、デジタル人材育成、業務効率化、生産性向上、新しいビジネスモデルの変革なども含めて、DX全般を統括しています。
矢代:

人材育成にiパスを取り入れたのは2022年4月です。ITもビジネスも学べる国家試験ということで、当初は建築や土木の業務を後方支援する人材向けにキャリアアップ要件として受験の推奨を始め、社長からも推奨メッセージを発信しました。
ただ、当社は建築・土木という業界柄に加え、従業員の年齢層が高いこともあり、デジタルに明るくない従業員が多くいました。従業員のマインドチェンジやリテラシー向上はDXを進めるうえで大きな課題だったのです。そこで2023年4月に「デジタル人材育成計画」を打ち出し、すべての従業員を「デジタル利活用人材」とすべく、現在は全従業員にiパス受験を推奨しています。
デジタル人材を「利活用」「推進」「専門」の3種類で定義
三輪:

「デジタル人材育成計画」では、デジタル人材を次の3種類で定義しています。
1.デジタル利活用人材
全従業員が対象。事務作業時間の短縮や本業業務の最適化を行い、自組織の生産性向上を目指す。
2.デジタル推進人材
デジタル利活用人材から選任。「データアナリスト」「DXプランナー」「テックリーダー」という3つの役割に分類し、事業領域の業務改革や付加価値創出に取り組む。
3.デジタル専門人材
デジタルを専門とする部署に所属する従業員が対象。全社横断的なDXに取り組む。「データサイエンティスト」「DXディレクター」「テックプロフェッショナル」の3つの役割で構成する。
矢代:
各人材のレベルはそれぞれ下位からレベル1~3を設定しており、デジタル利活用人材のレベル3はiパス合格相当としています。iパス合格者には受験手数料を全額支給するというサポートも行っています。また、eラーニング研修の中のiパス対策講座を受講することでも利活用人材のレベル3に認定しており、すでに全従業員の6割に相当する約1,700名が受講しています。
2024年度末までに約500名(全従業員の2割)のiパス合格を目指しており、2024年12月現在の合格者数は416名。最終的には、2026年度末までに全従業員がデジタル利活用人材になることを目標としています。当社にとってiパスは全従業員が「身につけておくべきIT力」であり、デジタル利活用人材を拡充するための重要な指針になっているのです。
中堅社員向け研修や部門別合格者数の見える化で受験を後押し
三輪:
iパスを取り入れた当初は社内でどれだけ受け入れられるか不安でしたが、手軽に学べるということで初年度から200人以上の合格者を輩出することができました。
また、40~50代の中堅社員を対象にデジタルリテラシーの向上を目的とした「デジタル基礎理解研修」もiパス普及を後押ししています。2022年・2023年の2年間で対象社員の約9割に上る1,095人が受講した結果、各部門のリソース配分を担う中堅社員の間にDX推進の気概が育まれ、適切なIT投資や人員配置も期待できるようになりました。
小島:
部門別の合格者数の見える化もiパス受験の機運を高めています。部署ごとに合格者の目標割合を設定していますが、この進捗度合いをDX推進委員会など部門長が集まる場で共有することで目標達成への意欲が高まり、上司が率先してiパスを受験するなど合格者を増やす手法の共有にもつながっています。
このほか、社内のイントラネットでは合格者のインタビュー記事を動画やテキストで配信しており、組織全体でITリテラシー向上に取り組む文化が醸成されつつあります。
「ビジネスパーソンに不可欠の試験」と役員も評価
三輪:
iパス合格者からは、「学習してよかった」という声が上がっています。20代の社員からは「表計算ソフトの関数や機能についての理解が深まり、業務に活かすことで生産性が上がった」など、業務に直結する効果が得られたという声が聞かれます。30代の社員からは、「ハードウェア、ソフトウェア、データベース、ネットワークなど、なんとなく知っていたことを改めて理解でき、業務に活かせる」といった意見が出ています。
小島:
40代以上の社員の声で目立つのは「マネジメント分野の知識も業務で役立つ」というものです。合格したある役員は、「iパスはITの知識だけでなくストラテジーに関する知識も養えるので、ビジネスパーソンに不可欠の試験といえるのでは」と評価していました。
また、セキュリティの知識が得られるのもiパスのメリットでしょう。当社ではiパスとは別にセキュリティ教育を実施していますが、iパスを通じてセキュリティの基礎知識を身につけることで、サイバー攻撃に対する組織の共通理解が深まるものと期待しています。
「学ぶ」から「使う」へ――実践的な研修の拡充も
矢代:
iパスをさらに浸透していくには、学習を通じて得た知識やスキルを仕事に活かし、生産性を高めている従業員の姿をアピールしていくことも重要でしょう。「学ぶ」から「使う」へスムーズにシフトできるよう、実践的な研修の拡充にも力を入れていきたいと考えています。
小島:
2022年からの3年間は、利活用人材を増やしてITリテラシーの底上げを図る段階です。さらにDXの実践というフェーズに向け、本人のキャリアプランも踏まえながらDX推進人材のピックアップにつなげていく――。それが次の課題ということになります。
建設業界もDXが進み、今までと違う知識やスキルが必要になると見込まれますが、デジタルも道具のひとつと捉え、長年蓄えてきた建築や土木の知識、ノウハウにデジタルスキルをアドオンすることで、事業で提供する価値を高めていきたい。このビジョンを実現するため、今後も継続してデジタル人材育成を進め、デジタルスキルの向上や変革に向けたチャレンジに挑んでいきます。